フッ素入り歯磨き粉は何ppmが目安?外壁を守る選び方

実は、フッ素入りの歯磨き粉は「濃ければ濃いほどいい」と思っていませんか。
診察室でこの話題になると、ほとんどの方が「高いほうがよく効くんですよね?」と聞き返してきます。
半分は正解で、半分は違います。

こんにちは、柏木デンタルクリニックの柏木健介です。
削らない、抜かない、を最優先に診療している歯科医師です。

ppmという数字は、歯磨き粉選びでいちばん分かりやすい手がかりになります。
ただ、数字だけを追いかけても効果は伸びません。
そこには「歯の外壁をどう守るか」という視点が抜けているからです。

この記事では、年齢ごとの目安になるppm、パッケージのどこを見ればいいか、そして濃度以上に差がつく使い方まで順番にお話しします。
今夜の歯磨きから変えられる話ばかりです。

フッ素入り歯磨き粉は何ppmが目安?大人は1450ppmが基準です

ppmは「100万分のいくつ」を表す単位

まず数字の意味から片づけましょう。
ppmは「100万分のいくつか」を表す単位です。
歯磨き粉を1kg用意したとして、そのうち1.45gがフッ素なら1450ppm。
パーセントに直すと0.145%です。

歯磨き粉の中身のほとんどは、汚れを落とす研磨剤や泡立ちを作る成分です。
フッ素はごく少量の同乗者にすぎません。
それでも効き目が変わってくるのが、この成分の面白いところです。

日本の上限は1500ppm、店頭に1450ppmが並ぶ理由

日本では、薬用歯みがき類の承認基準でフッ化物イオン濃度の上限が1500ppmと決められています。
この上限が引き上げられたのは2017年3月で、それまでの最高は1000ppmでした。
つまり今の売り場は、まだ10年経っていない新しい景色ということになります。

店頭で1450ppmや1400ppmといった中途半端な数字を見かけるのは、日本歯磨工業会の自主基準で、濃度を50ppm単位に丸めて表示すると決められているからです。
上限の1500ppmに対して、その手前の数字が並んでいると考えてください。
実際、日本で売られている製品はフッ素濃度1450ppmと950ppmの2つが主流です。

濃度が500ppm上がると、予防効果は約6%上がる

では、950ppmと1450ppmで何がどう違うのか。
厚生労働省のe-ヘルスネットフッ化物配合歯磨剤によると、フッ素入り歯磨き粉そのもののむし歯予防効果は世界中の調査を集計して概ね24%。
そのうえで、1000ppmを超える範囲では濃度が500ppm上がるごとに予防効果が6%上昇するとされています。
根拠はWHOが1994年に出した専門委員会の報告書です。

正直に言います。
6%と聞いて「たったそれだけか」と感じた方、その感覚はズレていません。
1本使い切ったくらいで劇的な差は出ません。

ただ、歯磨きは1日2回、365日、何十年と続く行為です。
住宅ローンの金利が0.5%違うと総支払額が変わるのと同じで、小さな差でも積み上がる場所には確実に効いてきます。

年齢で目安は変わります|4学会がまとめた濃度と使用量

6歳を過ぎたら大人と同じ1400〜1500ppm

2023年1月、日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会が、合同でフッ素入り歯磨き粉の推奨をまとめました。
現在の目安がこちらです。

年齢フッ素濃度の目安1回の使用量
歯が生えてから2歳900〜1000ppm米粒程度(1〜2mm)
3〜5歳900〜1000ppmグリーンピース程度(5mm)
6歳〜成人・高齢者1400〜1500ppm歯ブラシ全体(1.5〜2cm)

注目してほしいのは6歳という区切りです。
以前は「6〜14歳」という中間の枠があり、1000ppmを超える歯磨き粉は15歳未満に適さないと考えられていました。
それが2023年の推奨で整理され、6歳を過ぎたら大人と同じ濃度でよくなりました。
ここ数年で更新された部分なので、昔覚えた知識のままの方は入れ替えておいてください。

大人には関係ない話でもありません。
歯ぐきが下がって根元が露出した高齢者の根面のむし歯に対しても、67%の予防効果があったという報告があります。
フッ素は子どものためのものだ、という思い込みは捨てて大丈夫です。

もうひとつ、診察室でよく聞かれる質問にも触れておきます。
インプラントが入っているとフッ素は避けるべきか、という話です。
4学会の推奨には、チタン製の歯科材料が使われていても自分の歯が残っているならフッ素入り歯磨き粉を使う、とはっきり書かれています。
守るべき天然の歯が1本でもあるなら、やめる理由はありません。

大人が驚くのは、濃度より「量」のほう

この表を診察室でお見せすると、みなさん濃度より使用量に反応します。
歯ブラシ全体、1.5cmから2cm。
テレビCMで見る、あのたっぷりの量です。

実際に使っている量を伺うと、1cmに届いていない方がかなりの割合でいます。
濃度1450ppmを選んでも、量が半分なら口に入るフッ素も半分。
せっかく高いものを買っているのに、もったいない使い方です。

6歳未満に高濃度を控えるのは「飲み込む」から

一方で、6歳未満のお子さんに1450ppmの製品は使いません。
高濃度の製品には「6歳未満の子供への使用を控える」という注意表示が義務づけられています。
理由は成分そのものの危険性ではなく、うがいが上手にできない年齢だと飲み込む量が増えるからです。

歯が作られている時期にフッ素を過剰に取り込み続けると、歯のフッ素症といって、エナメル質に白い斑点が出ることがあります。
e-ヘルスネットによれば、このリスクが集中するのは6歳以下で、前歯がいちばん影響を受けやすいのは1〜3歳のあいだ。
逆に言えば、表の量さえ守れば、水道水にフッ素を入れていない日本で心配しすぎる必要はありません。
うがいがまだできないお子さんなら、磨いたあとにティッシュで軽く拭き取る方法もあります。

ここで気をつけたいのが、子ども向けとして売られている製品の濃度です。
市場には500ppmや100ppmといった、かなり低い濃度の子ども用歯磨き粉も並んでいます。
4学会が2歳までの子に推奨しているのは900〜1000ppmですから、パッケージが子ども向けでも数字が足りていない場合があります。
薄めれば安全という発想ではなく、年齢に合った濃度を、年齢に合った量だけ使う。
これが今の考え方です。

歯の「外壁」を守るとはどういうことか

エナメル質は家の外壁、フッ素は防水塗装

ここで少し例え話をさせてください。
歯を1軒の家だと思ってみます。
いちばん外側のエナメル質が外壁、その内側の象牙質が柱や断熱材、いちばん奥の神経が中に住んでいる人です。

外壁は毎日、雨風にさらされます。
口の中における雨風は、食事のたびに細菌が作り出す酸です。
フッ素がやっているのは、この外壁に防水塗装を重ねる仕事。
壁を分厚くするのではなく、水を弾きやすい表面に作り変えてくれるイメージです。

溶けている時間と、戻っている時間

外壁は毎日ほんの少しずつ溶けています。
専門的には脱灰と呼ぶ現象で、酸によって歯の成分が溶け出すことを指します。
そのあと唾液が働いて、溶け出した成分を歯に戻していきます。こちらが再石灰化です。

健康な口の中では、この2つがシーソーのように釣り合っています。
フッ素は、戻る側の皿に小さな重りを乗せてくれる存在です。
唾液の中のカルシウムやリンを歯に取り込みやすくして、ついでに細菌が酸を作る働きも鈍らせます。

削る治療は、外壁の張り替えに近い

穴が開いてから詰める治療は、傷んだ外壁を剥がして新しい材料を張るのと同じです。
仕上がりは新品同様に見えても、継ぎ目からまた傷んでいきます。
そして張り替えられる回数には限りがあります。

歯は、削れば削るほど寿命が縮みます。
だから私は、外壁が溶けきってしまう手前の段階に時間を使ってほしいと思っています。
1450ppmという数字は、そのための道具のひとつにすぎません。

濃度以外で差がつく、選び方と使い方

パッケージで確認したいのはこの3つ

  • フッ素濃度の数字(1450ppmF、950ppmFなど)
  • 成分名(フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズのいずれか)
  • 6歳未満への注意表示があるかどうか

困るのは、濃度が書かれていない製品がまだ残っていることです。
4学会の提言でも、多くの市販品でフッ素濃度が記載されておらず推奨を守るうえで大きな問題だ、と名指しで指摘されています。
成分名にフッ化物の名前があっても、数字がなければ何ppmなのか判断できません。
数字が書かれていない製品は、候補から外してしまって構いません。

成分名の違いを気にされる方もいますが、ここは深追いしなくて大丈夫です。
どのフッ化物であっても、濃度が同じなら守るべきポイントは変わりません。
売り場で迷ったら、成分表ではなく数字を探してください。

すすぎは、少量の水で1回だけ

濃度選びより効くかもしれないのが、ここです。
歯磨きのあとは歯磨き粉を軽くはき出し、うがいをするなら少量の水で1回。
4学会の推奨される利用方法【普及版】も、e-ヘルスネットの記載も、ここは完全に一致しています。

コップに何杯もうがいをしてしまうと、せっかく歯に行き渡ったフッ素を自分で洗い流すことになります。
洗車してワックスをかけた直後に、ホースで全部流してしまうようなものです。
1450ppmの歯磨き粉を選んだ意味が、最後の30秒で消えてしまいます。

4学会の推奨が「就寝前を含めて1日2回」と、わざわざ時間帯を指定しているのにも理由があります。
眠っているあいだは唾液の量がぐっと減り、歯を修復する働きも落ちるからです。
外壁でいえば、いちばん風雨が強い時間帯に塗装を塗り直しておくようなもの。
朝と夜のどちらかしか丁寧にできないなら、迷わず夜を選んでください。

泡が苦手な人はダブルブラッシングという手も

泡立ちが邪魔で歯磨き粉を使わない、という方は意外といます。
私の患者さんにも「からみがき派」が一定数いて、以前は無理に説得しようとして失敗しました。
正しいことでも、続かなければ意味がありません。

そういう方には、まず何もつけずにしっかり磨いて、最後にフッ素入りの歯磨き粉をつけて全体に行き渡らせる程度に磨き直す方法をお伝えしています。
e-ヘルスネットではダブルブラッシングと呼ばれている使い方です。
汚れを落とす作業と、フッ素を届ける作業を分けてしまう。
これならズボラな日でも続きます。

高濃度にすれば虫歯にならない、わけではありません

デメリットも正直にお伝えします。
1450ppmを使っていても、歯と歯の間には歯ブラシの毛先が届きません。
フッ素は届いた場所にしか働かないので、フロスや歯間ブラシを使わない限り、そこは無防備なままです。
むし歯が歯と歯の間から始まりやすいのは、そういう理由です。

もうひとつ。
日本の市販品は1500ppmが天井です。
海外では5000ppmの歯磨き粉が処方されていて、根元のむし歯の進行を止める効果がはっきり確認されています。
4学会も日本での認可を求めていますが、いまのところ市販されていません。
市販の歯磨き粉でできることには限界がある、という前提は持っておいてください。

まとめ

数字だけ持ち帰るなら、6歳以上は1400〜1500ppm、5歳までは900〜1000ppm。
量は大人で歯ブラシ全体、1.5cmから2cm。
すすぎは少量の水で1回。
覚えるのはこれだけです。

歯磨き粉を高いものに買い替えるより、今使っている歯磨き粉の量を増やして、うがいを1回に減らすほうが効きます。
しかも、お金は1円もかかりません。

まずは今夜、うがいを1回だけにしてみてください。
最初は口の中がさっぱりしなくて、物足りない感じがするはずです。
その違和感こそ、フッ素が口に残っている証拠だと思ってください。

一生、自分の歯でステーキを食べたくありませんか。
私はそのために、今夜もコンビニスイーツを食べたあとでフロスと格闘します。